■ 木材を扱っている私たちにとっても、たいへん貴重な体験が始まりました。製材工場の一角を、大工棟梁の仕事場として提供し、その仕事ぶりを毎日、拝見する事となりました。どのような手順と手際で形になっていくのか、機会ある毎にレポートしていきたいと思います。
2007年3月1日
もちろん、棟梁が手がけるのは、ふつうの住宅ではありません。入母屋(いりもや)と呼ばれる、屋根が跳ね上がった、伝統的な日本家屋の建築です。

工務店では「できない」と断られたお施主さんが、最後に行き着いたのは、この棟梁さんでした。

棟梁が描いた全景図
製材所の一角で始まった、棟梁の仕事場。まず最初に始まったのは、、

なんと、棟梁は壁にベニヤを貼って、そこに原寸で図面を書き始めたのでした。

それも、手慣れた感じで、ものすごいスピードで描いていきます。墨壺を自在にあやつり、あれよという間に書き上げました。

これは、入母屋の曲がり(カーブ)の具合を算出して、型取りするための下書きです。

各部材がどういう風に納まっていくのか、こうした図面を実物大で描いてもらえるのは、製材所にとっても大変ありがたく、材料の選定や許容がよく理解出来ます。

この図にはまだ描かれていませんが、「跳び梁」と呼ばれる、特殊な部材が付加され、屋根構造を支える重要な役割をするそうです。力学的に難しい構造で、実際に墨付け出来る大工さんは、数少ないと聞きます。

玄関回りの屋根図
屋根裏だけでも人間が立って入れそう。
熟練の棟梁

いつもなら、型取りした後に取り外してしまうそうなのですが、このまま壁に貼って残してもらう事にしていただきました。もしかしたら、将来、大切な資料になるかもしれません。(重要文化財とか・・・)


2007年3月6日 「セイガイ造り」
さて、土台の墨付けをしながら、今度は破風板まわりの屋根の原寸図です。これもまた見事な手順で仕上げていきます。

「大工とスズメは軒で泣く」とも言われますが、棟梁の頭の中には完璧に図面が出来上がっているようです。

写真では分かりにくいのですが、この屋根は若干ですが上にそり上がっています。この微妙なラインに合わせて破風板などの材料を納めていきます。

さて・・・

う〜ん、この破風板。広小舞。。今度は製材所が「泣き」ます。。

玄関まわりの屋根のライン

2007年3月17日 「茅負い」
今回のメインとも言える重要な部材の木取りが始まりました。

壁に書いた原寸図から「茅負い」(かやおい)と呼ばれる屋根の部材を型取りし、こういった丸太から木取ります。

型を当てがって、曲がり具合を見ます。木はヒノキです。

丸太をまず、タイコに製材します。丸太の曲がりに沿って、型に従って墨付けをしていきます。

この墨付けに従って、ヨキと呼ばれる斧で切り出していきます。

斧(別名与岐ヨキ)

墨のライン近くに正確にヨキが打ち込まれ、荒削りがされていきます。

同じように反対側も削られていきます。

さすが!の熟練の早業で、あっという間にこれだけの荒削りがされてしまいました。

見ていると簡単そうですが、一歩間違えば、斧が足に当たって大怪我をする、危険な作業です。

手伝いに来ている年配の大工さんも、「ヨキを使うのを初めて見た」との事でした。

荒削りの後、さらに細かい削りを今度は「チョウナ」と呼ばれる道具で仕上げていきます。

チョウナ

<-------この微妙な角度の付いた木取りラインがお分かりいただけますでしょうか。

荒削りされた茅負いです。平らな面に置いてみると、その曲がり具合がよく解ります。

これを、電気カンナと、手カンナで正確な寸法へと仕上げていきます。

さて、どんな形になっていくのか、お楽しみに!


2007年3月19日 「広小舞」
これが完成した「茅負い」です。

材の両端で形が違います。この形が三次元的に繋がりながら、さらに全体で曲がっているという、何とも曲芸に近い加工です。。

もうひとつ、茅負いとペアになる部材、「広小舞(ひろこまい)」も同じような曲がり具合で仕上げていきます。こちらもチョウナを使って、斜め三角に加工していきます。
この2つが、写真のように合体します。

これを起こして、2つ(左右)を留め切りして組み合わせると、、

こういった屋根の先端部に出来上がります。

平面に対して、角材一個分、反り上がります。

この合わせ目から、さらに「入母屋」という部材が顔を出すと、いかにも日本の寺社のような屋根の形になります。


2007年3月30日 「入母屋」

同じように、今度は入母屋(いりもや)の原材を型から墨付けします。こういった根っこの曲がり木を使います。長さは4mあります。先の方は構造の中に隠れて見えなくなります。

ヨキやチョウナを使って、仕上げていきます。この見事な曲がりが何ともいえない味です。さあ、どういう風に屋根に納まって行くのか、楽しみです。
同じくして、腕木に使う「赤松」が届きました。わざわざ広島から取り寄せた松で、もう日本でも赤松は希少なものとなってしまいました。

節の無い、奇麗な肌は松独特の雰囲気で、「松を使いたい」という棟梁のこだわりが感じられます。

棟梁はさっそく、カンナを取出し、削り始めました。


2007年4月10日 「腕木」

赤松材は、主に「腕木」と呼ばれる軒まわりに使われます。家から放射状に、屋根構造を支える部材として仕上げられます。

桁に対して、長ほぞの腕木が沢山造られます。

長ほぞの腕木

上の2つが、こんな形で差し込まれ、軒へと張り出す形になるようです。

2007年4月20日 「入母屋組み」

手伝いの大工さんへ様々な指示をしている棟梁さん。やっと入母屋の墨付けと加工に専念する時間ができました。

サシガネを駆使しながら、曲がった入母屋に墨付けをしていきます。

入母屋の納まる屋根桁の交差を加工します。上の写真は手伝いの大工さんに説明するためのサンプル加工です。これと入母屋が合体して、

こんな感じに組み上がります! こんなに長く張り出す家も民家ではなかなか無いかと思います。


2007年5月18日 「腕木の塗り」
赤松の腕木の外に出る部分に塗装を施している棟梁。

下塗りをした後、カシューで3度塗り重ねていきました。

一方、こちらは破風板です。頂点の三角部の止め加工です。

そしてこれが垂木と淀の上にまっすぐ乗る広小舞です。製材機で三角に割るのが、また技術です。

ちなみに、4m×150×75ミリの2方無地です。


2007年5月24日 「上棟!」
忙しい追い込み仕上げを乗り越え、上棟となりました。

これだけの家ですから、初日に棟まではあがりませんでしたが、数日かけて、ようやっと棟まであがりました。

こちらが入母屋が乗る前の屋根組みです。腕木、軒桁、隅木などが3重に重なり合います。とても幾何学的で美しい木組みです。

腕木がこんな感じで張り出しています。面戸をはめているところです。


2007年6月10日 「屋根組」
ようやく屋根まわりが固まってきて、瓦が乗っていきます。玄関回りも追加されて、家の形が整ってきました。

こちらが入母屋とその回り、裏板(軒天井)が張られた所です。まるで社寺のような雰囲気です。

やはり日本人の心をくすぐられる美しさです。


玄関の屋根まわり
整然と配置された部材の美しさ。
広大な小屋組

2008年7月 
このブログを見て頂いた埼玉の若い大工さんが、ぜひ棟梁に会ってみたいと、静岡までいらっしゃいました。

当日は私も用がありお会いできませんでしたが、棟梁から貴重な話や指導をいただいたようです。小さなブログですが、今後も何かのお役に立てれば幸いです。


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