工務店では「できない」と断られたお施主さんが、最後に行き着いたのは、この棟梁さんでした。
なんと、棟梁は壁にベニヤを貼って、そこに原寸で図面を書き始めたのでした。
それも、手慣れた感じで、ものすごいスピードで描いていきます。墨壺を自在にあやつり、あれよという間に書き上げました。
これは、入母屋の曲がり(カーブ)の具合を算出して、型取りするための下書きです。
この図にはまだ描かれていませんが、「跳び梁」と呼ばれる、特殊な部材が付加され、屋根構造を支える重要な役割をするそうです。力学的に難しい構造で、実際に墨付け出来る大工さんは、数少ないと聞きます。
いつもなら、型取りした後に取り外してしまうそうなのですが、このまま壁に貼って残してもらう事にしていただきました。もしかしたら、将来、大切な資料になるかもしれません。(重要文化財とか・・・)
「大工とスズメは軒で泣く」とも言われますが、棟梁の頭の中には完璧に図面が出来上がっているようです。
さて・・・
う〜ん、この破風板。広小舞。。今度は製材所が「泣き」ます。。
壁に書いた原寸図から「茅負い」(かやおい)と呼ばれる屋根の部材を型取りし、こういった丸太から木取ります。
型を当てがって、曲がり具合を見ます。木はヒノキです。
斧(別名与岐ヨキ)
墨のライン近くに正確にヨキが打ち込まれ、荒削りがされていきます。
さすが!の熟練の早業で、あっという間にこれだけの荒削りがされてしまいました。
見ていると簡単そうですが、一歩間違えば、斧が足に当たって大怪我をする、危険な作業です。
手伝いに来ている年配の大工さんも、「ヨキを使うのを初めて見た」との事でした。
チョウナ
<-------この微妙な角度の付いた木取りラインがお分かりいただけますでしょうか。
荒削りされた茅負いです。平らな面に置いてみると、その曲がり具合がよく解ります。
さて、どんな形になっていくのか、お楽しみに!
材の両端で形が違います。この形が三次元的に繋がりながら、さらに全体で曲がっているという、何とも曲芸に近い加工です。。
これを起こして、2つ(左右)を留め切りして組み合わせると、、
平面に対して、角材一個分、反り上がります。
この合わせ目から、さらに「入母屋」という部材が顔を出すと、いかにも日本の寺社のような屋根の形になります。
同じように、今度は入母屋(いりもや)の原材を型から墨付けします。こういった根っこの曲がり木を使います。長さは4mあります。先の方は構造の中に隠れて見えなくなります。
節の無い、奇麗な肌は松独特の雰囲気で、「松を使いたい」という棟梁のこだわりが感じられます。
棟梁はさっそく、カンナを取出し、削り始めました。
赤松材は、主に「腕木」と呼ばれる軒まわりに使われます。家から放射状に、屋根構造を支える部材として仕上げられます。
長ほぞの腕木
手伝いの大工さんへ様々な指示をしている棟梁さん。やっと入母屋の墨付けと加工に専念する時間ができました。
サシガネを駆使しながら、曲がった入母屋に墨付けをしていきます。
入母屋の納まる屋根桁の交差を加工します。上の写真は手伝いの大工さんに説明するためのサンプル加工です。これと入母屋が合体して、
こんな感じに組み上がります! こんなに長く張り出す家も民家ではなかなか無いかと思います。
下塗りをした後、カシューで3度塗り重ねていきました。
一方、こちらは破風板です。頂点の三角部の止め加工です。
そしてこれが垂木と淀の上にまっすぐ乗る広小舞です。製材機で三角に割るのが、また技術です。
ちなみに、4m×150×75ミリの2方無地です。
これだけの家ですから、初日に棟まではあがりませんでしたが、数日かけて、ようやっと棟まであがりました。
こちらが入母屋が乗る前の屋根組みです。腕木、軒桁、隅木などが3重に重なり合います。とても幾何学的で美しい木組みです。
腕木がこんな感じで張り出しています。面戸をはめているところです。
こちらが入母屋とその回り、裏板(軒天井)が張られた所です。まるで社寺のような雰囲気です。
やはり日本人の心をくすぐられる美しさです。
当日は私も用がありお会いできませんでしたが、棟梁から貴重な話や指導をいただいたようです。小さなブログですが、今後も何かのお役に立てれば幸いです。
070317 茅負い
070319 広小舞
070330 入母屋
070410 腕木
070420 入母屋組み
070518 腕木の塗り
070524 上棟!
070610 屋根組